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「献体」は一つの平和運動

琉球大学でいご会
「米兵と農民-沖縄県伊江島」「命こそ宝-沖縄反戦の心」(岩波書店)などの著者で知られる阿波根昌鴻さんは、沖縄反戦運動の象徴的存在であり、沖縄戦で一人息子を失い、戦禍をまのあたりにして、戦後は銃とブルトーザーで住み慣れた土地を追われた。
阿波根さんは、戦後50年、一貫して反戦、反基地闘争の先頭に立ち、故郷の伊江島で「命こそ宝の家」を拠りどころに平和を説きつづけている。マスコミにもしばしば登場し、県民の敬愛の的である。また、本土各地から同氏の人柄を慕い、伊江島に足を運ぶ人は、年間15,000人余にものぼるという。(沖縄タイムス)
同氏はまた、琉球大学医学部の献体団体「でいご会」の古くからの会員で、同氏の誘いで献体に応じた者は数知れず、「献体は平和運動」と文字通り平和の使徒、たのもしい献体奉仕活動の先達である。
鉄の暴風といわれた沖縄戦。伊江島は摩文仁と並ぶ最大の激戦地。伊江島では村民と日本軍合わせて約3,500人余の死者を出した。戦後の復興に汗を流していた30年3月、米兵300人が突如として島に上陸してきた。強制的に接収された土地にブルトーザーがうなりをあげ、家屋も畑も、あっという間に姿を消し広大な射爆場が完成した。それは実に伊江島の面積の約23平方キロの六割を占めた。阿波根さんも、銃とブルトーザーで住み慣れた土地を追われた。この非情な米兵の土地接収に、阿波根さんは、聖書を引用して「銃をとる者は剣にて滅ぶ」「基地をもつ国は基地にて滅ぶ」と説き、琉歌で「真謝原ぬ花ん アメリカぬ花ん 土地あてど咲つる花の美らさ」=土地あってこそ友好の花も咲くのだと訴え、反対運動の先頭に立った。17歳でキリスト教に入信していた阿波根さんの実像である。
沖縄の風土は、古くから祖先崇拝の同門意識が根強く、血縁、同姓の重層的な社会構造が色濃く残り「献体」運動の障害となっていると指摘する者もいる。最近の時代相から、そうした風習は改善されたかに思われがちだが、なかなかそうならないところが歴史の意地悪さであろうか。献体運動を語る場合、しばしば指摘される欧米との死生観のちがい、本土との神仏観のちがいと多様化が、認識のちがいを生んでいるのではないだろうか。
筆者は、日本の神は根本のところで、シャーマニズムにほど近い神道ではないかと思っている。わが国の神は、穢れを払って禊によって再生します。そのところで仏教の輪廻思想と習合しやすかったのではないだろうか。阿波根さんの平和運動の総体の中での献体という奉仕活動は、酷しい時代環境の中で、学ぶべき多くの問題を示唆しているように思われる。「献体は一つの平和運動」永遠の命題であるかも知れない。
(宮城 実)

 

 

 

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